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マールの火竜 ~設定で力尽きた?~
元々、この作品は「批評か解題、どちらかをお願いします」と依頼されたもので、私は批評を選んだのだが、あらためて推薦された作品を吟味していると、この作品の解題が、普遍的なシナリオの構築にいちばん役立ちそうな気がする。
「鬼人の町」は作者の考えを改めなくちゃダメだし、「鳥の歌が聞こえない」はすでに解題した作者の作品だ。「十三の魔女の話」は面白そうだが、ちょっと変化球なのは否めない。
というわけで、本作と相なった。
さっそくだが、ポイントを2つ挙げよう。基本的な話ではあるが、意識して組んでいる人は少ないような気がする。
もちろんプレイ済みで、あらすじを理解している前提で話をする。
「インパクトのないOPはもったいない」
このシナリオは一般的な作品と同じく、宿屋で依頼を探すところから始まる。冒険者たちは荷物配達の依頼を受けて、リューンを出発。途中の炭鉱の町を通りすぎ、野営。血を流して飛んでゆくドラゴンを見送ったあと、襲撃された街まで向かう。
たとえば、演出論の観点から大ナタを振るうとすれば、ここまでのOPはまるまるいらない。
まさか。と思うかもしれないが、これがOPだからこそ、このような話が出てくる。
本作のOPの特徴は、丁寧だが平易でクセもなく、伏線や状況の説明があるが、どれも現状における必要性が非常に薄く、しかもドラマがないということだ。
一言で言うと、"つかみ"が弱いのである。
……いや待った。中編なんだし、途中から面白くなってくるかもしれない。
もちろん、その可能性は十分あるだろう。
しかしそれなら、最初から面白いほうがイイに決まっているのだ。「話に引き込む」という言葉があるように、ストーリーにできるだけ早く集中してもらった方が、伏線や世界観の設定をすんなり受け入れてもらえるようになる。
中盤や終盤で見せ場を作れるだけの力があるなら、オープニングにガツンと一発、決めておきたい。
「冒険者に関係のない話」
ドラゴンに襲われた街に到着した冒険者たち。依頼人の商人を探すため、阿鼻叫喚の街中を捜索することになる。
結局、商人の代理人を見つけ、配達の依頼を完了するわけだが、ついでにドラゴン襲撃の真相をまとめてくれる。
別段、プロットに破綻はない。では問題ないのだろうか。
……基本中の基本に立ち返っていただきたいのだが、主役は冒険者たちであり、プレイヤーは常に冒険者の視点でロールプレイしている、ということを思い出してほしい。
どういうことか。つまり、冒険者達にとっては依頼の完遂が最優先であり、その他もろもろはただの状況、風景である。王女の身体問題はおろか、ドラゴンに街が襲われたことすら、冒険者にとって何の関係もない話なのだ。
これがTRPGなら、状況に対して無反応とはいかないだろうから、へー、とか、おー、くらいは言うかもしれない。常識的な憐憫の形くらいは取るだろう。
もっと大きいリアクションがほしい? 簡単だ。ドラゴンに襲われたのがリューンで、冒険者の宿がドラゴンブレスに焼かれたら……真っ黒焦げの「カード置き場」が出てきたら? そんな気の抜けたリアクションは飛んでこないはずだ。
すなわち、まず必要なストーリーというのは、投影された対象の反応になりうる情報なのである。
王女の病気を治すためにドラゴンに襲われた街と、たまたま荷物を運びに来たゴロツキ(w では、あまりに関わりがなさすぎるのだ。
設定の中に冒険者の視点が組み込まれていないのである。
この症状に陥るGMは後を絶たない。闇雲にデータを積めばイイ。というわけではない。やはり、求められる情報には優先順位があるのである。
最初に「OPはまるまるいらない」と書いた。たとえば、実際にすっぱりカットして、街にいきなり放り込んだとしたら、どうだろう?
OPの伏線や説明は、まるごと後回しにしても問題がない。何もわからない状態からのスタートなので、極端な情報不足である冒険者たちは、積極的に情報収集を行うだろう。ドラゴンに襲われたことを推察し、次に何をすればよいか、能動的に動くのではないか。
もちろん、多少の手直しはいるが……古いRPGでは、よく使われる手法である。
総評としては……設定を書き上げた段階で思考が止まっている印象を受ける。
設定を作った、(仮に)ひねりもいれた。じゃあ完成だ。という風にはならない。ミステリーを例に取るとわかるかもしれない。たった一行「殺人事件だ。犯行時刻はOO、凶器は包丁、トリックはOOで犯人はヤス」と書かれたら、どう反応するだろうか?
読者の視点を想定し、情報を選定して提示していく。その結果としてストーリーが生まれるわけで、つまるところ、物語にするための再構成が出来ていない。
最後になるが、ひとつ褒めるところが。
PCの役割設定を、ストーリーの中に組み込んだのはエライ。最初にガタガタ決めるよりも全然スマートだ。